研究員コラム 百色眼鏡

【連載】揚子江に架かる長大橋を訪ねて 第4回 世界最長の斜張橋となった蘇通大橋 後編

連載第3回目の前編では、蘇通大橋の概要や建設の背景を概観した。最終回となる今回は、実際に現地を訪れた際に体感した橋の大きさ、そして橋梁技術を一般にもわかりやすく伝える展示館・屋外展示場の充実ぶりを紹介する。

実感した橋のスケール

蘇通大橋を訪れたのは、連載コラムの第1回目でも触れたとおり、2010年5月に開催された第7回 国際吊構造橋梁管理者会議のテクニカルツアーに参加したときである。
テクニカルツアーの前半は潤揚大橋を見学し(コラム第2回目を参照)、後半はいよいよ蘇通大橋の見学である。現地では、会議主催者である江蘇交通ホールディング公司の技術者から説明と案内を受けた。取付け橋梁の全長が約6kmと長く、本体である蘇通大橋だけでも約2kmに及ぶ。その規模は、我が国ではなかなか想像しにくい長さであり、その威容に圧倒された。橋梁中央部の全長が2,088mの斜張橋付近では、ツアーバスの速度を緩める配慮を頂いた。しかしながら、当時の世界一を記録した桁外れの規模を誇るこの橋は、もちろん画角に収まるはずもなく、残念ながらバス車内からの写真撮影では満足できるものは得られなかった。

写真1 蘇通大橋展示館

橋梁技術を紹介する充実の展示施設

蘇通大橋を見渡す揚子江南岸の蘇州(常熟市)には、大規模な展示場と展示館が整備されている。会議が行われた潤揚大橋にも展示施設はあったが(コラム第2回目を参照)、地下式で展示物の種類も限られていた。一方、蘇通大橋の展示施設は、開放的で広い敷地内に3階建て延べ床面積3,500㎡の展示館が設置されている。(写真1~7) 

写真2 展示館内部         写真3  展示館内の主塔と主桁

館内には、橋全体と使用機材の模型に加え、映像、写真、説明図などを効果的に組合せ、計画、設計、施工、維持管理の概要がわかりやすく展示されていた。さらに、橋の建設にあたって新たに開発された工法、器具、材料なども詳細に解説されており、川幅が広く、水深も深い揚子江の最下流部に橋を架けるための先端技術などは非常に見ごたえがあった。
また展示館の3階は、展望バルコニーとなっていて、揚子江をまたぐ壮大な蘇通大橋の全景を一望できる。 
展示館の外は、公園として整備され、主塔、斜材、鋼製の隔壁を設置した主桁の一部、PCの箱形断面などの模型と一部分、主桁と斜材の静的耐荷試験と疲労試験の試験体などが展示されていた。こうした実物展示は、図面や写真だけでは伝わりにくい実際の形状寸法の迫力を直感的に理解させてくれる。

写真4 屋外展示場と蘇通大橋     写真5 屋外展示場の鋼主桁断面

写真6 屋外展示場のPC主桁断面    写真7 展示館3階から見た蘇通大橋

蘇通大橋の展示場と展示館は、著者がこれまで訪問した橋梁関連施設のなかでも最大規模であり、展示内容も非常に充実していた。世界で初めて中央径間1,000mを超えた斜張橋の建設は、橋梁技術における画期的な出来事であり、わが国の明石海峡大橋が吊橋の技術史に刻んだ意義に並ぶものと考えられる。そのことが、蘇通大橋の展示場と展示館には具体的な形で示されている。

竣工時に、世界最長の斜張橋となった蘇通大橋は、斜張橋の技術を大きく進歩させた構造物である。現地の展示施設には、その実績と貢献がよく現れており、橋そのものの迫力と同じほど、筆者の心に深い印象を残した。

これまで4回にわたり中国の揚子江に架かる長大橋を紹介してきた。潤揚大橋と蘇通大橋は、いずれも揚子江を横断する交通の要であると同時に、当時の中国の長大橋建設を象徴する存在であった。長大橋の建設は、現代の土木・建築・材料工学における最先端の技術の結晶であり、その国の総合的な技術力を現わすものである。今やこの長大橋分野において中国は世界をリードする立場となっている。 
橋梁は、社会の発展と人々の生活に欠かすことのできないものであり、今後の橋梁技術の革新こそ持続可能な社会基盤を支える柱となっていくであろう。

(理事長・辻  幸和)

※本稿は、コンクリートテクノ 2016年1月号/Vol.35. No.1(pp.21~23)に掲載されたコラム
「揚子江を渡る世界トップクラスの蘇通大橋」を元に追加・修正したものです。

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