研究員コラム 百色眼鏡

【連載】揚子江に架かる長大橋を訪ねて 第1回 鎮江と揚州を結ぶ潤揚大橋 前編

中国では、道路や橋など社会基盤施設の整備が積極的に進められている。なかでも長大橋の建設には目を見張るものがある。かつて日本が本州四国連絡橋で世界記録を次々と塗り替えてきたように、中国でも大規模な橋梁が相次いで誕生している。揚子江に架かる橋に、その特徴がよく現れている。

今回から4回にわたり、2010年5月に中国・鎮江市(江蘇省)で開催された第7回国際吊構造橋梁管理者会議に参加した時に訪れた潤揚大橋と蘇通大橋について、橋の概要や地域との関わり、現地視察で感じたことなどを紹介していく。1回目と2回目は、揚子江の長大橋群のなかでも先駆的な存在といえる潤揚大橋を前後編にわけて取り上げる。

橋を支える人たちが集う国際会議

最初に、今回の連載で紹介する潤揚大橋と蘇通大橋を訪れるきっかけとなった第7回 国際吊構造橋梁管理者会議について簡単に触れておく。この会議は、2010年5月18日~20日の3日間、鎮江市と揚州市を結ぶ潤揚大橋の南橋と北橋の間にある揚子江中州(世業洲)の金陵潤揚大橋酒店(Jinglin Runyang Bridge Hotel)で開催された。(写真1)主催は、江蘇交通ホールディング公司(Jiangsu Communications Holding Co. Ltd)で、江蘇潤揚大橋発展有限責任公司(Jiangsu Runyang Bridge Development Co. Ltd)が実施を担った。ちなみに第6回会議は、2008年に香川県高松市で行われている。
ホテルから潤揚大橋までは徒歩10分ほどだったので、期間中は朝の散歩コースとして橋の近くまで歩いていたことは懐かしい思い出である。この会議が開催される直前には、開通5周年の記念行事も行われていたという。(写真2)

 写真1 金陵潤揚大橋酒店                   写真2 潤揚大橋開通5周年記念行事

国際吊構造橋梁管理者会議(ICSBOC:International Cable Supported Bridge Operators’ Conference)は、1991年に米・ニューヨーク州橋梁公団、デンマーク・グレートベルト橋公団、日本・本州四国連絡高速道路(株)の3機関により創設された世界の吊橋や斜張橋などの「吊構造橋梁」の維持管理に携わる専門家や技術者が一堂に会する国際会議である。メンテナンスや維持管理の課題、技術開発などに関する情報交換が主な目的となっている。
今回の会議でも、世界各国の8機関から参加した技術者・研究者が、最新の維持管理システムや管理技術について報告し、2日間にわたって活発な意見交換が行われた。その最終日である3日目に実施されたのが、潤揚大橋と蘇通大橋を視察するテクニカルツアーであった。

水運で栄えた鎮江と揚州

会議が開催された潤揚大橋が架かる鎮江市と揚州市は、日本では馴染みが薄いかもしれないが、いずれも揚子江(長江)沿いにある中核都市である。上海から揚子江を約200km遡った北岸に揚州市、南岸に鎮江市が位置している。さらに約60km上流には南京市がある。この一帯は、揚子江と京杭大運河とが交差する交通の要所となっている。
京杭大運河は、北京と杭州を結ぶ全長約1,794kmの人工運河である。関連する水路を含めると、その長さは約2,500kmに及ぶ。隋の煬帝によって完成されたこの運河は、世界最長の人工運河として知られ、古くから人や物資を運ぶ重要な水上交通路として利用されてきた。鎮江や揚州の街も、この水運を背景に産業を発展させてきたのである。
鎮江と揚州の間には、幅の広い揚子江が横たわっている。そのため、かつて両市を移動するにはフェリーを利用するか、南京市を経由する必要があった。しかし、2005年に潤揚大橋が開通したことで、それまでフェリーで40分以上かかっていた揚子江の横断が、車でわずか5~10分程に短縮され、両都市間は30分程で移動できるようになった。川を隔てていた二つの都市が、一気に身近な存在になったのである。
なお、鎮江の街を訪れた様子については、別コラムで詳しく紹介する予定である。

吊橋と斜張橋が連なる雄大な姿

鎮江と揚州を結ぶ潤揚大橋(Runyang Bridge)は、2005年4月に開通した全長7,371mに及ぶ長大橋で、正式名称は潤揚長江公路大橋(Runyang Yangtze River Highway Bridge)である。中国全体の高速道路ネットワークを繋ぐ揚溧高速道路の一部を形成しており、鎮江と揚州だけでなく、揚子江沿岸地域および長江デルタ全体の経済発展に重要な役割を果たしている。この橋の完成により、揚子江沿岸の主要都市から巨大市場である上海へのアクセスが劇的に改善され、世界有数の上海経済圏の形成を後押しする契機となったのだ。

写真3 潤揚大橋の南橋          写真4 潤揚大橋の北橋

吊橋と斜張橋を組み合わせた複合構造となっており、揚子江の中州(世業洲)を挟んで、南側に470+1,490+470mの3径間連続の補剛桁をもつ吊橋、北側に175.4+406+175.4mの3径間連続の鋼斜張橋が配置されている。揚子江を行き交う最大5万t級の超大型貨物船の航路を確保するため、桁下高さは50m、幅は390mが必要であった。(写真3・4)
吊橋の主塔は高さ約216mの鉄筋コンクリート製である。

川幅の広い揚子江を越えるために、吊橋と斜張橋という二つの形式を組み合わせているところに、この橋のスケールの大きさが感じられる。今回は、潤揚大橋が架かる地域の背景と、橋の概要を見てきた。後編では、潤揚大橋の展示館、テクニカルツアーで見た橋の技術的な見どころを紹介したい。

(理事長 辻幸和)

※本稿は、コンクリートテクノ2015年12月号/Vol.34. No.12(pp.26~29)に掲載されたコラム
 「鎮江と揚州を結ぶ潤揚大橋」を元に追加・修正したものです。

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